新しいチームメンバーとの関係構築に潜む無意識バイアス:信頼と協力を育む実践アイデア
新しいチームにメンバーが加わることは、チーム全体にとって新たな視点や活力がもたらされる機会です。しかし、新しい人間関係を築く過程では、自身の無意識バイアスが影響し、スムーズな関係構築やメンバーの早期の活躍を妨げてしまう可能性も存在します。
本稿では、新しいチームメンバーとの関係構築に影響しうる無意識バイアスに焦点を当て、それに気づき、信頼と協力を育むための具体的な実践アイデアをご紹介します。
新しいチームメンバーとの関係構築に影響しうる無意識バイアス
新しいメンバーを迎え入れる際、私たちは過去の経験や限られた情報に基づいて、その人物に対して無意識のうちに特定の印象や期待を抱くことがあります。こうした無意識的な判断は、その後のコミュニケーションや関わり方に影響を与え、本来の関係構築プロセスを歪めてしまうことがあります。
影響しうるバイアスの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 第一印象バイアス: 初対面で得た情報(外見、話し方など)に基づいて抱いた印象が、その後の評価に強く影響する傾向です。これにより、メンバーの能力や人となりを客観的に見られなくなる可能性があります。
- ステレオタイプ: 特定の属性(出身企業、年齢、性別、職種など)に対して持っている固定観念が、その属性を持つ新メンバーへの見方に影響する傾向です。「○○会社の出身だから△△が得意だろう」「若いから最新技術に詳しいだろう」といった無意識の決めつけが生じえます。
- ハロー効果/ホーン効果: ある一つの際立った特徴(例: 有名な経歴、優れた学歴)が良い(ハロー効果)または悪い(ホーン効果)印象を与え、その人物の他の側面全体を評価する際に影響する傾向です。これにより、特定の特徴に引っ張られ、メンバーの全体像を見誤る可能性があります。
- 類似性バイアス: 自分と似ていると感じる人(趣味、経歴、考え方などが共通する)に好意を持ちやすく、そうでない人に距離を感じやすい傾向です。これにより、特定のメンバーとのコミュニケーションが密になりすぎたり、逆に他のメンバーとの関わりが希薄になったりする可能性があります。
これらのバイアスが働くと、新メンバーの持つ真の強みや個性に気づけなかったり、コミュニケーションの機会が偏ったり、チームへの馴染み具合に差が出たりといった課題が生じやすくなります。
バイアスに気づき、フラットな関わり方を意識するためのヒント
自身の無意識バイアスに気づく第一歩は、「自分にもバイアスがあるかもしれない」と認識することです。その上で、以下のような点を意識的に行ってみることが有効です。
- 新メンバーへの第一印象や感想を書き出してみる: 新メンバーと初めて関わった際、どのような印象を持ったか、どのような「こうである」という決めつけが頭をよぎったかを具体的に書き出してみます。その印象や決めつけの根拠は何か、本当にそうだろうか、と自己に問いかけます。
- 意図的に多角的な情報を集める: 限られた情報や特定の場面での印象だけで判断せず、様々なチームメンバーと新メンバーとのやり取りを観察したり、多様な業務を通じて新メンバーのスキルや考え方を知る機会を設けたりします。フォーマルな場だけでなく、インフォーマルな場での会話からも気づきを得られることがあります。
- 他のチームメンバーとの視点共有: 新メンバーについて、他のチームメンバーがどのような印象を持っているか、どのような点で助けられているか、どのような課題が見られるかなどを、フラットに話し合ってみる機会を持ちます。自分一人では気づけなかった側面に気づけることがあります。
信頼と協力を育むための実践アイデア
バイアスに気づいたら、次にそれを踏まえた上で、より建設的な関係構築に向けた行動を意図的に選択していきます。
- 「人は多面的である」という前提を持つ: 誰しもが様々な経験やスキル、個性を持っています。一つの側面だけでその人を判断せず、様々な可能性を持つ存在として向き合う姿勢を大切にします。
- コミュニケーションの量と質を意識する: 特定のメンバーとだけ深く話すのではなく、新メンバーを含む全てのメンバーと、業務に関する真面目な話から、安心感に繋がるちょっとした雑談まで、バランス良くコミュニケーションを取る機会を設けます。質問しやすい雰囲気を作ることも重要です。
- 客観的な事実に基づいて評価し、関わる: 印象や感情ではなく、新メンバーがどのような貢献をしたか、どのような行動を取ったか、どのようなスキルを発揮したかなど、具体的な成果や行動に焦点を当てて評価やフィードバックを行います。
- 共通の目標やタスクを通じて関わる機会を作る: 一緒に具体的なプロジェクトやタスクに取り組むことで、互いの強みや働き方を理解し、信頼関係を築きやすくなります。新メンバーが貢献を実感できる役割を与えることも有効です。
- メンター制度やバディ制度の活用: 新メンバーに対して、特定のチームメンバーが継続的にサポートする仕組みを導入します。これにより、新メンバーは孤立せずに安心して質問や相談ができ、チームの規範や文化を理解しやすくなります。メンター側のメンバーも、自身のバイアスに気づく機会となることがあります。
- チーム全体で「歓迎する文化」を醸成する: 新メンバーを温かく迎え入れ、チームの一員として早期に溶け込めるよう、チーム全体で協力する雰囲気を意識的に作ります。歓迎会や簡単な自己紹介の機会などが有効です。
実践事例:多様なバックグラウンドを持つメンバーを迎えるチームでの取り組み
あるIT企業の企画チームでは、中途入社者が多く、多様なバックグラウンドを持つメンバーが頻繁に加わります。以前は、各メンバーが自身の経験に基づいて新メンバーを評価しがちで、「前職が大手だから堅実だろう」「スタートアップ出身だからフットワークが軽いだろう」といった無意識のステレオタイプがコミュニケーションや役割分担に影響していることがありました。
この状況に対し、チームリーダーは以下の取り組みを始めました。
- オンボーディングミーティングの形式変更: 新メンバーがチーム全体に自己紹介する際に、経歴だけでなく、「チームで挑戦したいこと」「個人的に興味を持っている技術や分野」「強みと感じていること」などを話す時間を設けました。これにより、表面的な情報だけでなく、メンバーの意欲や潜在的な能力を知る機会を作りました。
- 「フラットな情報共有タイム」の設定: 週に一度、業務外の話題も含め、カジュアルに情報交換する時間を設けました。これにより、趣味や関心事といったパーソナルな側面を知る機会が増え、メンバー間の相互理解が深まりました。
- チーム内メンター制度の導入: 新メンバー一人につき、必ず一人の先輩メンバーがメンターとしてつき、定期的に1対1で話す機会を設けました。メンター役のメンバーには、「新メンバーの良い点や意外な一面に気づく」ことを意識してもらうよう伝えました。
これらの取り組みを通じて、チームは新メンバーに対する多角的な視点を持つことができるようになり、ステレオタイプに基づく決めつけが減りました。結果として、新メンバーは早期にチームに溶け込み、それぞれの個性やスキルを活かして活躍できるようになり、チーム全体の創造性や協力関係が向上しました。
まとめ
新しいチームメンバーとの関係構築は、単に業務を引き継ぐだけでなく、信頼に基づいた協力関係を築く重要なプロセスです。自身の無意識バイアスに気づき、意図的にフラットな視点とコミュニケーションを心がけることは、新メンバーのポテンシャルを最大限に引き出し、チーム全体の活性化に繋がります。
ここでご紹介した実践アイデアが、より良いチームを築くための一助となれば幸いです。日々の関わりの中で、自身の無意識バイアスに意識を向け、行動を少しずつ変えていくことが、チームメンバーとの信頼関係を育む基盤となります。継続的な実践を心がけてみてください。