他部署との連携や協業に潜む無意識バイアス:より円滑な部門間協力を実現する実践アイデア
部門間の連携や他部署との協業は、現代の多くのビジネスにおいて不可欠な要素となっています。企画の実現、プロジェクトの推進、サービスの改善など、部署の垣根を越えた協力なくしては成し遂げられないことが少なくありません。一方で、異なる文化や目標を持つ部署間での連携は、時に難しさを伴うこともあります。そこには、個人の意識の表層には現れにくい「無意識バイアス」が影響している可能性があります。
この無意識バイアスに気づき、適切に対処することは、部門間の信頼関係を構築し、より円滑で生産的な協業を実現するために非常に重要です。本記事では、部門間連携において影響を及ぼしやすい無意識バイアスの例と、それに気づき、行動を変えるための具体的な実践アイデアをご紹介します。
部門間連携に影響しやすい無意識バイアスの例
部門が異なれば、組織文化、業務プロセス、短期・長期の目標設定などが異なるのが一般的です。こうした違いは、知らず知らずのうちに無意識バイアスを生み出しやすくなります。
- 内集団バイアス(In-group Bias): 自分たちの所属するグループ(部署)を肯定的に評価し、他のグループ(他部署)を相対的に低く評価したり、不信感を抱きやすくなる傾向です。自分たちのやり方や考え方が正しい、優れていると感じやすくなります。
- ステレオタイプ(Stereotype): 特定の集団(特定の部署や職種)に対して、単純化された固定的なイメージを持つことです。「あの部署はいつも返事が遅い」「〇〇部門は技術的なことしか考えない」といった決めつけは、このステレオタイプに基づいている可能性があります。
- 敵意帰属バイアス(Hostile Attribution Bias): 他者の行動の意図を、実際よりも悪意があると解釈しやすい傾向です。他部署からの依頼や情報提供が遅れた際に、「意図的に協力的でない」「自分たちを困らせようとしているのではないか」とネガティブに捉えてしまうことがあります。
- 確証バイアス(Confirmation Bias): 自分が持っている信念や仮説(例: 「あの部署は非協力的だ」)を裏付ける情報ばかりに注意を向け、それに反する情報を軽視したり無視したりする傾向です。これにより、他部署への固定観念が強化されてしまいます。
これらのバイアスは、部署間のコミュニケーションを阻害し、情報の非対称性を生み、建設的な協業を妨げる原因となります。
無意識バイアスに「気づく」ための実践アイデア
自身の内に潜む部門間連携に関する無意識バイアスに気づくことは、改善への第一歩です。
- 「もし自分が相手の部署だったら」と考える習慣をつける: 他部署からの依頼や情報に対して、すぐに判断を下す前に、一度立ち止まり、相手の部署の立場や状況、目標などを想像してみます。なぜその依頼なのか、なぜそのタイミングなのか、どのような制約があるのかなど、背景を推測してみることで、一方的な見方から脱却する手がかりが得られます。
- ネガティブな感情に気づくトリガーを設定する: 他部署とのやり取りでイライラしたり、不満を感じたりした際に、「バイアスが働いているかもしれない」と自分に問いかけるトリガーを設定します。感情が動いた時こそ、自身の思考パターンを客観的に観察するチャンスです。
- 具体的な事実と解釈を区別する練習をする: 例として「〇〇部署はいつもレスポンスが遅い」と感じた場合、「レスポンスが遅い」というのは解釈であり、事実ではありません。事実として「先週依頼したA件の回答が今日まで来ていない」「B件の問い合わせに3日かかった」などを具体的にリストアップしてみます。事実と解釈を分けることで、自身のバイアスによる色眼鏡に気づきやすくなります。
- 異なる部署のメンバーと意識的に交流する機会を持つ: カジュアルなランチや休憩時間の会話など、業務とは直接関係のない場で他部署のメンバーと交流することで、彼らの人となりや部署の雰囲気を肌で感じることができます。ステレオタイプを崩す上で有効な手段となります。
バイアスを「克服・軽減し、行動を変える」ための実践アイデア
無意識バイアスに気づいたら、それを克服または軽減し、部門間連携を円滑にするための具体的な行動に移すことが重要です。
- 共通の目標やビジョンを定期的に共有する: 部署ごとの目標だけでなく、会社全体の目標や、関係する部署間で共有する共通の目標を明確にし、定期的に確認する機会を設けます。これにより、「自分たちの部署 vs 他の部署」という構図ではなく、「共通の目標に向かう協力者」という意識を醸成しやすくなります。
- 建設的な対話の場を意図的に設定する: 依頼や情報共有だけでなく、プロジェクトのキックオフ時や節目に、関係部署が集まり、お互いの期待や懸念、進め方についてじっくり話し合う場を設けます。ここでは、お互いの部署の役割や貢献を認め合う姿勢を示すことが大切です。
- 情報共有の仕組みを改善する: 他部署が必要とする情報にアクセスしやすい環境を整備します。プロジェクト管理ツール、情報共有ツールなどを活用し、部署間の情報の壁を低くすることで、不信感や誤解が生じるリスクを減らします。
- 成功事例を積極的に共有し、称賛する: 部門間の協力によって良い成果が出た事例を積極的に社内や関連部署に共有します。成功体験を共有することで、部門間協力の価値を再認識し、ポジティブな関係構築を促進します。
- ネガティブな解釈をする前に「確認する」習慣をつける: 他部署の行動に対してネガティブな推測や感情が湧いた際には、すぐに決めつけず、意図や状況について本人や関係者に穏やかに確認するステップを踏みます。「〇〇について、〜という状況と理解しているのですが、合っていますでしょうか?」「もし差し支えなければ、△△の背景を教えていただけますか?」のように、質問形式で事実確認を試みます。
実践例:部門間連携バイアスを乗り越えたチームリーダー
あるIT企業の企画部門リーダーは、新しいサービス開発において開発部門との連携に課題を感じていました。企画側の要望を伝えても、開発側からは「それは難しい」「仕様変更が多い」といった反応が多く、納期遅延も発生しがちでした。リーダーは「開発部門は企画の意図を理解しようとしない」という無意識のバイアスを持っていたことに気づきました。
そこでリーダーは以下の実践に取り組みました。
- 開発部門の日常業務を理解する: 開発部門のマネージャーに相談し、週に一度、開発側の定例ミーティングにオブザーバーとして参加させてもらう機会を得ました。これにより、開発側の抱える技術的な課題や、彼らがどのようにタスクを管理しているかなど、具体的な状況を理解するようになりました。
- 開発部門の立場での検討を依頼する: 企画段階で、開発部門のキーパーソンに早い段階で情報共有し、「この企画を実現するために、開発側でどのような点が懸念されるか、技術的に可能なアプローチは何か」といった観点からのインプットを依頼するようになりました。
- インフォーマルなコミュニケーションを増やす: 業務上のやり取りだけでなく、休憩時間などに開発部門のメンバーと雑談する機会を意識的に増やしました。趣味の話や業界トレンドなど、業務と直接関係のない会話を通じて、人としての関係性を築きました。
これらの実践により、リーダー自身の開発部門に対するステレオタイプや敵意帰属バイアスが軽減されました。開発部門との間には信頼感が生まれ、企画段階からの連携が密になったことで、より実現可能性の高い企画立案や、予実管理の精度向上に繋がりました。
まとめ
部門間連携に潜む無意識バイアスは、組織全体の生産性やイノベーションを阻害する要因となり得ます。自身の内に内集団バイアスやステレオタイプ、敵意帰属バイアスなどが存在しうる可能性に気づき、客観的な視点を持つ訓練を行うことが重要です。
そして、気づきを行動変容に繋げるためには、共通目標の確認、建設的な対話の場の設定、情報共有の改善、成功体験の共有、そしてネガティブな解釈を保留し事実を確認する習慣といった具体的なアプローチを継続的に実践することが求められます。
部門間の壁を低くし、互いを尊重し協力し合える関係性を築くことは、チームや組織全体の力を最大限に引き出すことに繋がります。日々の業務の中で、自身の無意識バイアスに注意を払い、より良い部門間連携を目指した実践を積み重ねていくことが期待されます。