チームの衝突を解決へ導く:無意識バイアスに気づき、建設的な対話を生む実践アイデア
チームで業務を進める上で、意見の対立や認識のズレから衝突が発生することは避けられません。多様なバックグラウンドや価値観を持つメンバーが集まるチームにおいては、建設的な衝突が新しいアイデアを生み出す原動力となることもありますが、対立が深まるとチームの機能不全を引き起こす可能性もあります。
チームの衝突を円滑に、そして建設的に解決へと導くためには、リーダーシップが重要な役割を果たします。しかし、その衝突解決のプロセスにおいて、リーダー自身の無意識バイアスが影響を及ぼし、事態をより複雑にしたり、公平な解決を妨げたりすることがあります。
この記事では、チームの衝突解決の場面で起こりうる無意識バイアスに焦点を当て、それに気づき、行動を変えるための具体的な実践アイデアやステップをご紹介します。日々のチームマネジメントやメンバーとのコミュニケーションに活かしていただける内容となれば幸いです。
チームの衝突解決に潜む無意識バイアスとは
衝突が発生した際、私たちは自身の経験や固定観念、感情に基づいて状況を解釈しがちです。このような無意識の傾向が、問題の本質を見誤ったり、特定のメンバーを不当に扱ったりする原因となることがあります。衝突解決の場で特に現れやすい無意識バイアスの例をいくつかご紹介します。
確証バイアス
自分の最初の考えや仮説を裏付ける情報ばかりを集め、それに反する情報を軽視してしまう傾向です。衝突が起きた際、「きっとあのメンバーのコミュニケーションに問題があるのだろう」という最初の考えにとらわれ、その仮説を補強する言動ばかりに注目してしまうといったケースが考えられます。これにより、問題の多面性が見えなくなり、適切な解決策に至りにくくなります。
利用可能性ヒューリスティック
直近で経験したことや印象的な出来事を重視し、それが全体的な傾向であると判断してしまう傾向です。例えば、過去に特定のタイプのメンバーとの間で衝突が起こった経験があると、今回の衝突も同様の原因だろうと安易に決めつけてしまうかもしれません。個別の状況を正確に評価することが難しくなります。
内集団バイアス(イングループ・バイアス)
自分が所属する集団(この場合は自分に近い考えを持つメンバーや、個人的に親しいメンバーなど)を無意識に優遇し、他の集団やメンバーに対して否定的な見方をする傾向です。衝突の当事者の一方が自分にとっての内集団に属している場合、そのメンバーの主張をより鵜呑みにしやすくなる可能性があります。公平な立場で状況を判断することが困難になります。
根本的な帰属の誤り
他者の行動の原因を、その人の性格や能力といった内面的な要因に過度に求め、状況や環境といった外的な要因を軽視してしまう傾向です。衝突の当事者が何らかの失敗や問題行動を起こした場合、その原因を「彼/彼女は無責任だ」「スキルが不足している」といった個人の資質にばかり求め、業務負荷の偏りや必要な情報の不足といった組織的・環境的な要因を見落としてしまう可能性があります。
これらのバイアスは、衝突解決の場面で私たちの判断を歪め、問題の長期化や悪化を招く可能性があります。
無意識バイアスに「気づく」ためのヒント
自身の無意識バイアスに気づくことは、バイアスに対処するための第一歩です。衝突が発生し、解決に向けて動き出す際に、以下のような点に注意することで、自身のバイアスに気づくヒントが得られるかもしれません。
- 自身の感情に注意を払う: 衝突の状況を見て、あるいは当事者と話しているときに、どのような感情(苛立ち、共感、焦り、不安など)が湧いてくるかを観察します。特定の感情が強く湧いている場合、それが客観的な判断を妨げている可能性があります。
- 最初の「こうだろう」という推測に疑問を持つ: 状況を把握する中で、「きっと原因はこれだ」「あのメンバーが悪い」といった最初の推測や決めつけが頭に浮かんだら、意識的に立ち止まります。その推測が、限られた情報や過去の経験に基づいたバイアスではないかと疑ってみます。
- 自分の情報収集に偏りがないか確認する: 当事者双方、あるいは関係者から話を聞く際に、自分が聞きたい情報や、自分の仮説を裏付ける情報ばかりに耳を傾けていないか意識します。意図的に、自分の考えとは異なる視点や情報を求めるように努めます。
- 特定のメンバーに対する過去の印象が影響していないか自問する: 衝突の当事者に対して、過去の成功・失敗経験や個人的な好き嫌いといった印象が、現在の判断に影響を与えていないか冷静に振り返ります。
行動を「変える」ための実践アイデア
無意識バイアスに気づいたとしても、すぐに行動を変えることは容易ではありません。しかし、意識的な取り組みや具体的なステップを踏むことで、バイアスの影響を最小限に抑え、より建設的な衝突解決へと進むことが可能になります。
具体的なステップ
- 一旦立ち止まり、状況を冷静に整理する: 衝突が発生したら、すぐに感情的な反応をしたり、結論を出したりするのではなく、まず一呼吸おきます。何が起きたのか、誰と誰の間で、どのような点が対立しているのかを客観的に整理する時間を設けます。
- 関係者双方から丁寧にヒアリングを行う: 衝突の当事者や、状況を知る関係者から、それぞれの視点での話を聞きます。この際、相手の話を遮らず、共感的な姿勢で「聴く」ことに集中します。相手が何を事実として捉え、何を感情として感じ、何を要求しているのかを丁寧に引き出します。自分の最初の推測とは異なる情報が出てくる可能性があることを念頭に置きます。
- 「事実」と「解釈/感情」を切り分ける質問をする: 話を聞く中で、「具体的に、〇〇さんがXXと言った/した、という事実は何ですか?」「その事実に対して、あなたはどのように感じましたか?」「その言動を、あなたはどう解釈しましたか?」といった質問を投げかけます。これにより、客観的な事実と、個人の主観的な解釈や感情を区別し、問題の構造を明確に把握しやすくなります。これは、根本的な帰属の誤りを避けるためにも有効です。
- 複数の解決策をブレインストーミングする: 問題の構造が明らかになったら、解決策を検討します。この段階では、一つの解決策に固執せず、できるだけ多くの選択肢を洗い出します。関係者と共にアイデアを出し合うことで、自分一人では思いつかないような解決策が見つかる可能性が高まります。自分の最初のアイデア(確証バイアスに影響されている可能性のあるもの)を唯一の正解としないよう注意します。
- 合意形成プロセスを重視する: 関係者が納得できる解決策を目指します。一方的な結論を押し付けるのではなく、話し合いを通じて、それぞれの立場を尊重しつつ、最も合意が得やすい方法を選択します。解決策を実行する上で何が必要か、誰が何を担うかといった具体的なアクションについても合意を形成します。
他の人の実践例(架空事例)
事例:納期遅延を巡るデザイナーとエンジニア間の対立
とあるプロジェクトで、デザイナーから渡されたデザインデータの受け取りが遅れ、それに伴いエンジニアの開発スケジュールに遅延が発生しました。エンジニアは「デザイナーのデータ連携がいつも遅い」と不満を持ち、デザイナーは「エンジニアからの仕様変更依頼が多く、修正に時間がかかった」と主張し、対立が深まりました。チームリーダーは過去にもデザイナー側のデータ連携に課題があった印象があり、「またデザインがボトルネックか」という確証バイアスが働きかけそうになりました。
しかし、リーダーは一旦立ち止まり、両者から個別に丁寧にヒアリングを行いました。エンジニアからは、具体的にどのデータがいつ遅れたのか、それに伴いどのような影響が出たのかという事実を確認しました。デザイナーからは、いつ、誰から、どのような仕様変更依頼があり、それにどれくらいの時間がかかったのかという事実を確認しました。
ヒアリングの結果、確かにデータ連携の遅れはありましたが、それ以上に、開発途中に発生した仕様変更依頼が複数回あり、そのたびにデザイン修正とデータ再連携が必要になったこと、また、データ連携の方法自体にエンジニア側での確認・取り込み作業に時間を要するプロセスが存在することが明らかになりました。
リーダーは、自身の最初の「デザイナーが一方的に悪い」という見方が誤っていたことに気づきました。根本的な原因は、仕様変更の発生頻度と、データ連携の仕組みそのものにあると判断しました。
解決策として、リーダーは両者を集め、収集した事実を共有し、問題の構造を客観的に示しました。そして、仕様変更が発生した場合の連携フローの見直しと、より効率的なデザインデータ連携ツールの導入について、両者と共に検討する場を設けました。これにより、対立は解消され、再発防止に向けた建設的な取り組みへと繋がりました。
この事例のように、最初の印象や過去の経験に基づくバイアスに気づき、事実に基づいた情報収集と冷静な状況整理を行うことが、建設的な衝突解決への重要なステップとなります。
まとめ
チームにおける衝突は、適切に対応することでチームの成長に繋がる機会となり得ます。しかし、その過程でリーダー自身の無意識バイアスが影響し、問題解決を妨げたり、関係性を悪化させたりする可能性があります。
自身の思考や感情、情報収集の傾向に意識的に注意を払うことで、無意識バイアスに気づくことができます。そして、事実と解釈を分けながら関係者の話を丁寧に聞き、複数の視点から解決策を検討するといった具体的なステップを踏むことで、バイアスの影響を乗り越え、建設的な対話による問題解決を目指すことが可能になります。
無意識バイアスへの気づきと、それに基づく行動変容は、一朝一夕にできるものではありません。日々のチームマネジメントの中で、自身のバイアスについて意識的に振り返る習慣を持つことが、より良いリーダーシップへと繋がる一歩となるでしょう。